はじめに
マシニング加工は、精密部品から産業装置、治具、金属機構部品まで幅広い製造分野で利用される、非常に汎用性の高い加工方法です。
しかし現場では、
「図面はあるのに加工会社と仕様が共有されていなかった」
「納期は守られたのに精度が出ておらず再製作になった」
「追加費用が突然発生してトラブルに発展した」
といった問題が今も多く起きています。
これらの多くは、発注段階での“情報不足”や“認識のズレ”によるものです。
そこで本記事では、堺市でマシニング加工を手掛ける KATAGIRI WORKS が、
発注前に必ず押さえるべき10のチェック項目 を、プロの視点からわかりやすく整理しました。
初めて発注する方はもちろん、発注担当者、製造管理者、設計者、経営者まで役立つ内容です。
1. 図面情報は十分か?(最重要項目)
マシニング加工の品質を左右するのは、設備性能よりもまず「図面の情報量」です。
図面に書かれていない部分は加工会社が“推測”で対応することになり、これがトラブルの原因になります。
▶ 必ず盛り込みたい項目
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寸法・公差
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穴径・穴ピッチ
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面粗さ
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角Rの指定
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面取りの有無
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タップサイズ
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仕上げ方向
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材質(A5052 / S45C / SUS304 など)
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表面処理(アルマイト、黒染め、亜鉛、硬質クロムなど)
▶ よくあるトラブル例
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「このR、勝手に入れたの?」
→ 指定なしのため、使用工具の最小Rが入った -
「安全のために面取りしただけなのに…」
→ 本当は面取り不要だったのに自動的にC0.3を加工した
結論:図面が発注の9割。迷ったら必ず記載すること。
2. 公差(精度)が“必要以上に厳しい”ままになっていないか?
公差は品質を決める重要な要素ですが、同時に加工コストにも大きく影響します。
▶ 公差の違いによる加工レベル
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±0.01mm … 高精度加工、時間・工数が増大
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±0.05mm … 一般精度、標準的なコスト
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±0.1mm … 標準的な加工でコスト最適
設計段階で「厳しい公差=良い部品」という考えで設定されてしまうケースが多いですが、不要な公差はコストに直結し、結果的に納期も延びます。「本当に必要な公差か? 」をあらためて確認するだけで、大きなコスト削減につながります。
3. 材質の指定は正確か?
材質の指定は、マシニング加工において図面精度と同じくらい重要です。
材質が1ランク違うだけで、加工時間・工具寿命・熱変形・仕上がり精度が大きく変わるため、見積額も大きく変動します。
そのため、“何となくの材質”で依頼すると、
・見積りが高くなる
・加工不可と判断される
・精度が出ない
・納期が延びる
といったトラブルにつながりやすくなります。
▶ ありがちな間違い
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A5052 と A2017 を取り違える
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SUS304 と SUS303 を混同(加工コストが変わる)
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“鉄” とだけ記載されており、SS400 なのか S45C なのか不明
▶ なぜ材質指定が重要なのか?
材質が明確であるほど、加工会社は最適な
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切削条件
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工具選定
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冷却条件
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加工順序
を組むことができ、精度もコストも最適化できます。
逆に曖昧な材質だと、安全側の条件で加工するしかなく、
「想定より高い」「納期が長い」「思った仕上がりにならない」という結果を招きます。
結論:材質は図面の“芯”になる情報。必ず正確に記載すること。
4. 表面処理・熱処理の有無を整理したか?(寸法変化に要注意)
表面処理や熱処理は、完成後の寸法・外観・耐久性に直接影響します。
それなのにもかかわらず、発注段階で指定漏れが最も多い項目です。
処理内容によっては 膜厚が増える・歪む・硬くなる・反る といった変化が起きるため、
加工後に追加修正が必要になるケースも珍しくありません。
▶ 典型的なトラブル
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焼入れ後に曲がりが発生
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アルマイトで膜厚が増え穴径が合わなくなる
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黒染めが前提なのに素材が適しておらずトラブルに発展
▶ なぜ事前共有が重要?
表面処理や熱処理は工程の後半に行われるため、
「加工 → 表面処理 → 最終仕上げ」という流れを前提に設計・加工しなければ精度が出ません。
特に、
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シャフト類
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嵌合部品
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摺動部
は、処理後の寸法予測が不可欠です。
結論:加工と処理はワンセット。必ず発注前に処理内容を確定させること。
5. 数量と納期は“加工方法に見合っているか?”
数量と納期は、加工方法の選定そのものを左右する重要情報です。
▶ 数量による加工方法の違い
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1個:削り出し(マシニング向き)
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10~50個:多工程フライス+治具が必要な場合あり
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100~300個:専用治具・工法変更も視野
短納期すぎる案件が断られるのは、実は情報不足による判断ミスのケースも多く、事前相談で解消できることがほとんどです。
発注前に数量をしっかりと確認して、数量に見合った加工方法で依頼できれば対応できる可能性も高いです。
6. 組み立て情報を共有しているか?
マシニング加工では、単体精度よりも「組み立て後の動作精度」が重要です。
そのため用途情報をしっかりと共有しておく必要があります。
▶ 情報を共有すべき使用例
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回転軸として使う → 同軸度が重要
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押し当て治具として使う → 平行度・平面度が重要
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センサー取り付け → 穴位置精度が重要
加工会社は用途や目的が詳細に分かれば分かるほど、
認識にズレがなくなるので最適な精度で加工できます。
加工会社にとって用途情報は“最高の加工指示書”です。
7. 治具の要否を検討したか?
高精度や複雑形状では専用治具が必要なことがあり、治具の有無で品質・安定性・加工時間が大きく変わります。
治具費用は一見「追加コスト」に見えますが、
実際には
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加工精度向上
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不良率低減
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加工時間短縮
につながるため、中ロット以上ではむしろコストダウンになることが多いです。
結論:数量や加工方法等を加味して、目の前の費用ではなくトータル的な費用を考え、治具に費用をかけるか否かを判断してみてください。
8. 二次加工(溶接・追加工・組立)の有無を確認したか?
マシニング加工だけでは完結しないケースも多くあります。
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溶接
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ロウ付け
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組立
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研磨
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追加工
特に、
「溶接 → マシニング追加工」
「粗加工 → 研磨 → 仕上げ加工」
のような流れが必要な場合、事前共有は必須です。
これらを組み合わせる場合は、加工会社に早めに共有することで、最適工程・最小コストを実現できます。
後から追加要望する場合は、納品までに無駄な時間がかかったり、コストが膨らむ可能性もあるため、注意してご依頼ください。
9. 検査基準を事前にすり合わせているか?
トラブルで最も多いのが「検査基準の違い」です。
▶ よくあるすれ違い
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加工会社:ノギス・マイクロで確認
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発注側:三次元測定で全数検査
この差で合格・不合格が変わることがあります。
▶ 事前に決めるべき項目
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測定箇所
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測定方法
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測定機器
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NG許容範囲
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優先寸法の順位
KATAGIRI WORKSでは、必要に応じ、「三次元測定報告書」の提出にも対応しています。
検査基準を事前共有することで、検品トラブルの大半を防げます。
10. コストダウンの相談をしているか?(※最重要ポイント)
実はコストダウンの鍵は“発注者側の情報提供”にあります。
加工会社は、少しの仕様変更で大幅にコストを下げられるポイントを熟知しています。
▶ 具体的な削減ポイント
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公差の緩和
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不要な面取りの整理
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不要形状の見直し
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治具化による工数削減
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材質変更によるコスト最適化
「最適なコスト帯を提案してほしい」
と伝えるだけで、最適な加工方法を提示できます。
結論:“相談ベースの発注”が結果的に最も安く、最も品質が高い。
まとめ:発注の成功は“情報を出すこと”から始まる
マシニング加工で失敗を防ぐ最大の方法は、
加工会社にできるだけ多くの情報を提供することです。
今回の10項目を押さえておくだけで、
品質不良・追加費用・納期遅延のほとんどを回避できます。
✔ 発注前チェックリスト(保存版)
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図面情報は十分か
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公差は必要最小限か
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材質は正確に指定しているか
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表面処理・熱処理が明確か
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数量・納期は現実的か
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組み立て情報を共有したか
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治具の必要性を検討したか
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二次加工を把握しているか
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検査基準をすり合わせたか
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コストダウン相談をしたか
KATAGIRI WORKSは「発注しやすい加工会社」であることを心掛けています!
大阪府堺市のKATAGIRI WORKSでは、発注者の情報不足を前提に「ヒアリング~提案」まで丁寧に対応しています。
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試作1個〜中ロット生産
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三次元測定機による検査対応
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3Dデータ(STEP/Parasolid)対応
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設計変更にも柔軟対応
「相談ベースで話せる加工会社がほしい」
「発注の手間を減らしたい」
という方は、ぜひ一度、大阪府堺市にあるKATAGIRI WORKSまでご相談ください。